2024年の世界経済とストレージ・HDDの業界展望

IDEMA JAPAN個人会員
HORI Technology Office
ストレージアナリスト 堀内義章

  本資料は、筆者が毎年、コンピュータ業界のIDEMA JAPANに「世界の経済状況とストレージ・HDDの業界展望」(3月11日提出)を書いているものの転載で内容は少し状況が変わっているところもあるが、そのまま転載します。特にウクライナ侵攻やイスラエル戦争はいまだに続いており、注目は11月5日の米国の大統領選挙であろう。バイデン大統領に代わってハリス氏(現副大統領)が出馬し、どちらか勝つかによっては、また世界を揺るがしかねないので、世界経済と合わせて注目に値する。また日本は、岸田首相が総裁選挙に出馬しないことを表明しているので、日本も首相が変わることになる。ストレージ業界は、益々増える情報量に対して、サーバーやデータセンターにHDDは情報の蓄積として必須となっているが、米オープンAI の「Chat(チャット)GPT」の出現によりそれを用いる電力使用量の増大でその対処方法も重要なってきている(2024年8月28日追記)。
1 はじめに*1)*2)
今年は、昇龍年と言われているにも関わらず、新年早々から日航機衝突による炎上事故や石川地震が発生し、地震は道路の寸断や破壊の凄さからいまだに、まだ被災地にボランティアが入りにくいような状況が続き復興が遅れている。その一方で、世界はこの2月24日で丸2年になるロシアのウクライナ侵攻戦争や昨年(10月7日)にはハマスとイスラエルの戦争が発生し、いまだに続いている。2023年は世界の紛争は183カ所に上るとの事だが、戦争は、すべてを根底から破壊するので、多くの民間人の死者と復興に時間とお金がかかり(ウクライナ復興には10年で4860億㌦<約72.8兆円>の財源が必要とされている)、いい加減に、お互いが腹を割って話し、妥協してもらいたいものである。また多くの罪もない一般市民や子供たちが多くなく亡くなっていて、その悲惨さを痛感する。特に今年は世界の選挙イヤーと言われ、大きな選挙を含めて70以上の国政選挙があり、その中でも、ロシアの大統領選(プーチン氏再選)が3月15~17日、インドの総選挙(モディ首相再選)が4~5月に、米国の大統領選挙が11月5日に行われるので、注目に値する。CO2による地球温暖化などは、世界で取り組まなくてはいけない問題が多く、主義主張で意地を張る所ではないと思われる。世界は権威主義と自由経済主義、その中間のインドを中心にしたグローバルサウスに分かれており、お互いに妥協点を見つけてもらいたいと念願している。なお、現状では自由主義と権威主義の比率は、表1のようになっており、人口で行くと権威主義の方が圧倒的に多くなっていて、GDPでも接近してきている。

表1 民主主義が権威主義に押されそうだ(スウェーデンの調査期間V-Dem、英誌エコノミストなど、2024年1月4日 日本経済新聞)

民主主義陣営 権威主義陣営
米国、日本、EU等 主たる国 中国、ロシア等
90 国・地域数 89
29 人口比率(%) 72
54 GDP比率(%) 46

また今年のユーラシアグループが予測する世界10大リスクを下記に示す。いずれも可能性がある項目が多いのは心配の種。
ユーラシアグループが予測する世界10大リスク
1位 米国の分断          6位 経済を回復できない中国
2位 瀬戸際の外交         7位 重要鉱物の争奪
3位 ウクライナの事実上の割譲   8位 インフレの足かせ
4位 AIのガバナンス欠如 9位 エルニーニョ再来
5位 ならず者国家の枢軸      10位 米国でリスキーなビジネス
一方で、国内では国会議員の政治パーティの収支報告書の問題で、論議を呼んでいるが、今や、米国の好調と中国の不動産問題による経済の不調から、日本の株価が1990年来の最高値となり、一見、好調の様に見えるが、実態は、「少子高齢化」「賃金が上がらない」「GDPは、ドイツに抜かれ4位」「人口減少」「人材育成」「スタートアップ企業の少なさ」「女性の地位の低さ」「働く女性への支援不足」「女性天皇の検討」「中小企業の後継者不足」など多くの問題を抱えており、むしろこれらの問題に早期に対応してほしい。
ストレージ世界では、パソコンの飽和感、DX(デジタル・トランスフォーメーション)化の遅れ、メモリは大分回復していきたが、低迷し、一方では、「ChatGTP」の半導体を制したエヌビディアが独り勝ちみたいになり、今後はChatGTPを制した企業が、飛躍する構図になってきている。幸いに、日本は熊本に台湾のTSMCを中心とした半導体基地を作り、国も相当の支援をして半導体の復興を願っている。また、情報量は益々増大の一途をたどり、そのためのHDDを中心としたサーバーは必要不可欠になるので、HDDとしては、大容量化の要望がそうとう強なっている。その意味では、HDDの面記録密度の高密度化が増々必須となってくる。これらを含めて、今年世界経済とストレージ業界の動向を展望してみる。
2 世界経済と日本の動き
2-1 世界経済動向
ロシアのウクライナの侵攻が2年も続き、またイスラエルとハマスの戦争が昨年勃発し、これも続いて、更にエネルギーや穀物輸送に大きな影響を及ぼしている。また、不良債権問題で、中国の経済が空回りし、低成長化しており、さらに昨年人口もインドに抜かれ、中国の苦境が肥大化している。この3月から始まる全人代会議でどのような対策が盛り込まれるか注目に値する。さらに、世界は、権威主義と自由主義、その中間のグローバサウスと呼ばれるエリアに色分けされており、それぞれの分断が深刻化しようとしている。そして人口からしたら、権威主義やグローバサウスの方が多く、自由主義の危機でもある(表1)。また前書きでも述べたように、今年は世界の選挙イヤーで、特に大国のインドやロシア、米国の大統領選挙があり、今後の世界経済に大きく影響を及ぼす。米国は、バイデン大統領の再選か、トランプ氏の返り咲きかで、大きく世界の動向が変わってくるので、特に11月5日の米国大統領選挙には注目に値する。その意味では、人口世界一になり、中間を進むインドのモディ首相の今後が注目に値する。同首相は、グローバルサウスのリーダーとして、自由主義にも権威主義にも顔を出しており、経済成長でもインドが断トツの成長率を示している。その状態を表2、表3に示す。表2は世界の主要国の表示では1月時点で古いか、全体を表すのにはこの表が、一番分かり易いので、採用した。表3には、東南アジア6カ国の実質GDPの予測を示している。アジアの成長が、大きいことが分かる。
今後の焦点は、以下のことが上げられる

  1. ロシアのウクライナ侵攻の決着がつく時期
  2. イスラエルとハマスの戦争がどこで決着がつき、中東の戦争拡大が抑えられるか
  3. 米国大統領選挙の行方
  4. 地球温暖化は待ったなしで、世界が協調してCO2排出にストップがかけられるか
  5. 人口増加と人口減少の国との対応策
  6. 民主主義、権威主義、グローバルサウスのような中間主義とのバランス
  7. 人工知能(AI)のChatGTPの今後の活用
  8. インドがグローバルサウスの名手として指導力が発揮できるか、またサプラチェーン受け皿になれるか
  9. 国連改革と機能の回復

表2 2024年の成長率は低い水準に(2024年1月10日 日本経済新聞)

国・地域 2024年(2023/6との比較、%) 2025年(2023/6との比較、%)
世界 2.6(0.5) 2.4(-)
先進国 1.5(0.8) 1.2(-)
米国 2.5(1.4) 1.6(0.8)
ユーロ圏 0.4(-) 0.7(▲0.6)
日本 1.8(1.0) 0.9(0.2)
新興・途上国 4.0(-) 3.9(-)
中国 5.2(▲0.4) 4.5(▲0.1)
インド 6.3(-) 6.4(-)

表3 東南アジア6カ国の実質GDP(各国当局まとめ、2024年2月20日 日本経済新聞)

2022年(%) 2023年(%) 2024年予想(%)
フィリッピン 7.6 5.6 6.5~7.5
ベトナム 8.0 5.05 6~6.5
インドネシア 5.31 5.05 4.7~5.5
マレーシア 8.7 3.7 4~5
タイ 2.5 1.9 2.2~3.2
シンガポール 3.8 1.1 1~3

2-2 日本経済動向
日本経済は、半導体投資が活発となり、3月4日には株価が初めて4万円台に乗せ、バブル期を超え大いに賑わっているが(3月11日の終値は反落し、3万8,820円49銭)で、実態は、それに伴っていないのが現状である。円安、貿易赤字、出生率の低下で、人口減少が深刻化しているし、女性の地位の世界ランキングの低迷、各地域の過疎化、更には毎年起こる災害など抱える問題は多い。特に今回は、政治パーティの資金の流れが不透明で、野党も国民も疑念を抱いている。また、人材育成は、遅れており、スタートアップの起業率が低いのも、企業のトップがまだトヨタ自動車が走っているように、企業に新陳代謝がなされてなく、是非大学や企業在籍者でもスタートアップ企業の設立への志向を強めて欲しい。人口が減少し、企業の後継者が減少している現状、日本は10年企業が2万社以上あることを考えれば、将来見越した起業家の育成が重要であろう。今後、日本の企業永続のためにも技術者と人材育成へ力点を置いてほしいと願っている。
3 ストレージ業界の大きな変化
3-1 ストレージ
今後情報は一段と増加の一途をたどっており、その情報の保管方法は、表2に示すように、用途に応じて活用されている(HDD、フラッシュメモリ、光、磁気テープ)。一時は、どれかに統一されるのではないかと思われたが、用途に応じて、メーカーとそれぞれの制約でアーカイブを行っており、そのシステムを作るとなかなか変えにくい。また、お互い企業間で互換を持つ必要もないので、このまま用途に応じたアーカイブ行われるものと思われる。なお、表4には各種ストレージの特徴を、表5には各種ストレージの容量と進化を示している。この中で、古来からある磁気テープが、しっかりとした容量ターゲットを持って、年々着実に容量を伸ばしているのは、注目に値する。

表4 各種ストレージの特徴

媒体名 記録容量 価格 応答速度 寿命
HDD
フラッシュメモリ
磁気テープ ×

表5 各種ストレージの容量比較

ストレージの種類 現状(枚) 発表または予定 今後のターゲット
HDD 3.5型ディスク 2.5 TB 3/4 TB 5TB
2.5型ディスク 750 GB 1 TB 2 TB
光(BD) 5型ディスク 100/200/500GB/枚 1 TB(多層膜) 2 TB
NAND型3次元 NAND型3次元 64/128/256/512GB/1TB/4TB/5TB/8TB/16TB/32TB 多値 3~4ビット 128TB
SSD型3次元 128/256/512GB/1TB/4TB/5TB/8TB/16/32TB 多値、3~4ビット 128TB
MRAM型(SSD) 4GB
磁気テープ LTO9 18TB(非圧縮)/45TB (圧縮) LTO9/10/11/12(36/72/144TB)(非圧縮) 220 /330/400 TB

4 HDD業界とメモリの業界の動向

4-1 HDD業界動向

HDD業界は、ドライブメーカーとして大手3社で、推移しており、ドライブメーカーで主要部品の磁気ヘッド、メディアまで内製しているのは、Seagate TchchnologyとWD(Western Digital)であり、東芝はどちらも外部購入である。ただ東芝は、磁気ヘッドの開発は継続しており、メディアの開発生産をしている昭和電工、磁気ヘッドの東芝と組んで、高性能化の開発を行っており、開発後は生産委託をしている。また、パソコンのDynabookはシャープに売却して、会社名もDynabookとしてシャープが管理している。ただ、東芝は、不祥事により色々と株主間でのやり取りで、上場を昨年12月20日に廃止している。一時は、キオクシアとWDが一緒になるのではないかと話もあったが、結果的には、成立していない。表6には、HDDと部品メーカー状況を示す。

表6 HDDと主要部品メーカー

HDDと主要部品   会社名
     HDD Seagate、Western Digital(HGST)、東芝
ヘッド 専業 1社 TDK
内製 2社 Seagate、Western Digital(HGST)
メディア 専業 2社 昭和電工
内製 2社 Seagate、Western Digital(HGST)
サブ基板 アルミ 6社 Seagate、Western Digital(HGST)、昭和電工、東洋鋼鈑、Kaifa、ウエカツ工業
ブランク材 アルミ 2社 古河電工、神戸製鋼所
ガラス 1社 HOYA
 スピンドルモーター 2社 日本電産、ミネベア
   サスペンション 3社 ニッパツ、TDK、サンコール

米調査会社IDCによると、2023年の世界パソコン出荷台数(速報値)が前年比13.9%減の2億5950万台だったと発表した。2年連続で減少で、ほぼパソコンは、先進国では行き渡っており、新しい国での拡販に期待がかる。最近は各社が人工知能(AI)半導体を搭載した新型パソコンを投入し、今後の市場を回復しようとしている。その1番手がDynabookで、他社に先駆けAI専用エンジンを搭載、快適なエッジAI処理を実現する「dynabook R9」(29万円台<税込み>)を商品化、4月下旬に発売。また、パソコンメーカーのVAIOは開発人材2割増 2025年めど PC市場見据えている。さらに富士通がハード専業の新会社設立、サーバーやストレージ開発販売 「エフサステクノロジーズ」4月発足した。AI搭載のパソコンは、今後のパソコン市場を活性化するか、今後をみたい。ただ、パソコンは殆どが半導体のSSDを使用しており、HDDは勢い大容量の方向になり、サーバーや外付けHDD、監視カメラ、コピー機等の搭載になる。さらにアップルは新型半導体「M3」を搭載したノートパソコン「MacBook Air」を3月8日に発売すると発表(2024年3月5日 日本経済新聞)。海外では台湾PC大手2社(大手の宏碁<エイサー>と華碩電脳<エイスース>)はインドで増産して輸入規制に対応。インド政府が国内ハイテク産業の育成のため、輸入規制の強化を検討していることが背景。背景にあるのは、インドの製造業における政策転換だ。また、サプラチェーンの問題から中国からベトナムやインドへ生産拠点が移されつつある。
さらに次世代の高速計算機、量子コンピュータの商用化に向けて国内の産学が2024年度に新会社を立ち上げる(2024年2月24日 日本経済新聞)。産業界からは富士通や日立製作所、NECなど約10社が参画し、30年度までに新しい方式の高性能商用機の実現をめざす日本政策投資銀行や富士通、日立、NEC、浜松ホトニクスなど約10社が参画する。

表7 量子コンピュータで有力視される2方式

超電導方式 冷却原子方式
極低温で電気抵抗をなくした超電導の回路で計算 技術の概要 原子1個1個を「量子ビット」として操作し計算
米グーグル、米IBM、理化学研究所 主な開発企業・組織 分子科学研究所、米ハーバード大学
多くの企業が将来の活用に向け研究に利用 開発の状況 急速に研究が進展。量子ビットの安定性などが長所

量子コンピュータ開発の主な経緯(2024年2月27日 日本経済新聞)
・1999年:NECが超電導方式の基本素子となる量子ビットを実現
・2016年:米IBMが超電導量子コンピュータをクラウドで公開
・2019年:米グーグルが超電導方式で「量子超越」を達成
・2022年:分子科学研究所が冷却原子方式で超高速の基本演算を実証
・2023年:理化学研究所が超電導方式で「国産初号機」を稼働
・2024年:分子研や日本企業約20社が冷却原子方式の新会社設立へ
ただ最近は、サーバー系やAIを用いると消費電力の更なる増加するのが問題視され、如何に消費電力を抑えるサーバーを製作するかがカギになる。最近は消費電量の少ない培養脳のコンピュータで、神経細胞使い音声認識、省エネで電力問題に対応する研究がなされている。(2024年2月9日 日本経済新聞)。米インディアナ大学ブルーミントン校などは、人の幹細胞から作った神経細胞を集積した「培養脳」を用いて簡易なコンピュータを開発した。従来のコンピュータより少ない電力で計算できると期待される。実用化できれば、電力消費の拡大に対応する手段の一つとなる。
〇従来コンピュータとの違い
・メリット :「少ないエネルギーで学習」「学習速度が速い」
・デメリット:「細胞が生きている時間しか使えない」
〇将来は・・・・薬の効果判定などに活用期待
〇主なバイオコンピューティングの研究
・米インデアナ大学ブルーミント校:人のES細胞から作った脳オルガノイドを使い、2日間の訓練で、8人の音声を80%の確率で区別できるように
・東北大など:ラットの脳の神経細胞を基板上に培養し、「ゼロ」と「イチ」の発音を80%の精度で区別できるように
・豪コーティカル‣ラプス:人の幹細胞とマウス由来の脳の神経細胞を活用し、単純なコンピュータゲームができるように。創薬へ応用目指す

4-1-1 面記録密度
面記録密度は、色んな記録方式付加することによって少しは前進しているが、大幅な進展が見られていない。現在有力視されているHAMR(Heat Assisted Magnetic Recording)は、中々レーザー光の熱安定性から一部しか量産に投入されていなかったが、今回、ソニーのレーザーピックアップ(ナノフォトニックレーザー)を用いて、スポット径を小さくでき、容量アップし、更に媒体に超格子白金媒体(Fe-Pt)を用いて、格段に媒体の高抗磁力をアップし、さらに第7世代スピントロニクスリーダー、コントローラの組み合わせで容量アップする原動力になっている(2024年2月16日 日本経済新聞)。これは、昨年の11月の放送機器展(InterBEE)で展示されたSeagateからの説明で、問題は一応解決し、25TB、30TBなどが可能になったと聞かされていた。面記録密度は、各社とも発表されていないが、推定では現状で1.3Tbps2と思われる。また、MAMR(Magnetic Assisted Magnetic Recording)も研究開発が進められているが、高容量化の観点から見るとHAMRの方が、有利とみられている。図1には各種記録方式による面記録密度のトレンドを示す。

図1 各種方式による面記録密度のトレンド*3)

4-2 メモリ業界動向
メモリ業界の進展も著しく、パソコンは殆どがメモリであるSSD(256GB)に代わっている。ただ、大容量となるとやはり価格面での対応が、難しいようである。図2にSSDとHDDのGB当たりの価格比を示す。現状では6倍以上の差があり、直ぐに追い付くのは難しいようである。特に、これは平均だが、容量が大きくなればなるほど厳しくなる。一方で、メモリの高容量化は目覚ましく、多層タイプ(256層や300層以上)が順次出てきており、またビット数も3ビット、4ビットと発展している。またウエハーの大きさも200㎜から300㎜へとの移管の過程にあり、まだまだ価格が下げる手立ては、残っている。ただ、メモリ業界も在庫を多く抱えていたが、ようやくその目途も付き、今年後半からは徐々に回復して、行くと思われる。特にエヌビディアは、いち早くChatGTPの半導体を先行したために、好調な業績を残している。今後、ますますChatGTPの活用が活発化すると思われるのでその動向には注目に値する。

図2 HDDとSSDの価格差の推移(*4)

また、メモリカードでは、キオクシアが大容量2TBのmicroSDXCメモリカードを量産・発売(2023年12月25日 電波新聞)。世界中が国の産業として半導体を上げ、米国、欧州、日本などが半導体投資に盛んである。特に人口知能(AI)のCHatGTPが出現してからは、そのブームとなり表8に示すように各国の半導体投資には多額の金額が計上されている。また、

表8 各国での主な半導体投資計画(各社の発表から電波新聞がまとめ、2024年1月16日 電波新聞)

企業名 国・州 投資額(㌦/ユーロなど) 概要
米国
マイクロン・テクノロジー ニューヨーク 最大で1,000億㌦ メモリ工場
アイダホ 150億㌦ メモリ工場
インテル オハイオ 初期投資200億㌦以上 CPU、ファンドリなど
アリゾナ 最大300億㌦ 最先端半導体
オレゴン 数十億㌦ 研究開発施設拡充
IBM ニューヨーク 200億㌦ 量子コンピュータや半導体
TI テキサス 300億㌦ 300㎜半導体
グローバルファウンドリーズ(GF) ニューヨーク 10億㌦ 工場増設や新棟など
スカイウオーター・テクノロジー ミネソタ 米商務省やグーグルが支援 チップ
Samsung電子(韓) テキサス 170億㌦ 最先端ロジック
TSMC(台) アリゾナ 400億㌦ 4nmや3nm
グr-バルウエーハズ テキサス 50億㌦ 最先端300㎜ウエハー
アプライドマテリアルズ カリフォルニア 数十億㌦以上 R&Dなど
NY州、IBM、東京エレクトロン等 ニューヨーク 100億㌦ 次世代半導体開発
アナログ・デバイセズ オレゴン 10億㌦以上 ウエハー工場拡張
欧州
インテル ドイツ 300億ユーロ(170億ユーロから増額) 最先端チップやファウンドリ―
アイルランド 120ユーロ 新棟建設
ポーランド 46億㌦ 新棟建設
ボッシュ(独) ドイツ 30億ユーロ 研究開発拠点、増産など
STマイクロエレクトロニクス イタリア 7.3億ユーロ 半導体基板工場
STとGF フランス 57億ユーロ(推定) 300㎜ウエハー対応
インフィニオン ドイツ 50億ユーロ 300㎜ウエハー対応
ウルフスピード(米) ドイツ 30億㌦ SiC半導体やR&D
AMD(米) アイルランド 135億ユーロ 次世代AIなど
アナログ・デバイセズ アイルランド 約7.3億ユーロ ウエハー生産
その他
インテル イスラエル 250億㌦(推定) 半導体工場
マレーシア 70億㌦以上 後工程
マイクロン インド 27.5億㌦ 組み立てやテスト
Samsung電子 韓国 300兆㌆(約31兆円) 先端半導体
TI マレーシア 最大146億リンギット(約4,500億円) 組み立て・検査工程
インフィニオン マレーシア 70億ユーロ SiC半導体
AMD インド 4億㌦ 設計センターなど

主導権を握っているのは、台湾のTSMCで、世界各地に投資をしている。特に2nm以下を製作するのに、1台3億8000万㌦、重量は150㌧(高NA)EUV露光装置のスケールが装置として必要になる(*5)。2nm以下ノードの微細プロセス実現に向けて期待されている高NA(開口数)EUV(極端紫外線)露光装置のプロトタイプ「TWINSCAN EXE:5000」の初号機が、昨年末、ASML(オランダ)からIntelへ出荷されている。
日本も熊本で開設中のTSMCの半導体製造工場への投資やラピダスの各地域の工場などにも多くの補助金が国から出されている。特にAIの半導体で先行した米国のエヌビディアがシェアの8割を握っている。今後は、AIを用いた半導体がさらに活況を制するものと思われる。
4-3 HDDとメモリの今後の展開
HDDもSSDもそれぞれに特徴があり、特にSSDは比較的容量が小さくて即応性が必要な場合に、HDDは大容量で永久保存的なデータのアーカイブに用いられる傾向にある。ドイツの調査会社スタティスタは世界のデータ生成量が2025年に181ZBになると言われており、情報量の増加はうなぎのぼりで無限に広がると言ってよい。その意味でアーカイブは重要な役割を持つ。図3は世界のモバイルネットワークデータトラフィックの例を示している。

図3 世界のモバイルネットワークのトラフィック(EB/月)(2024年1月24日 電波新聞)

HDDは一時は6億5千万台生産されたこともあるが、現在はパソコンが殆どSSDに置き換わり、高容量やサーバー、外付けHDD、監視カメラ、コピー機、アーカイブ用に用いられている。昨年(2023年)のHDDの生産量はテクノ・システム・リサーチの資料によると1億2,230万台(前年比29%減)と大幅に減少し、これはコロナ感染の影響もあるが2024年度は1億2,150万台(同0.6%減)の微減にとどまると予想されている。この年を底に、さらに2025年には1億2900万台(同6.2%増)と増加が見込まれている。その要因は、サーバー系や監視カメラ、外付けHDDの増加が期待されている点にある。そのHDDとSSDの出荷推移を図4に示す。一方、SSDの方は、2023年は、3億1,980万台(前年比8.2%減)、2024年の予測は3億5,130万台(同9.9%増)を予想している。2023年がHDDとSSD共に減少しているのはコロナ感染の影響で消費や投資がストップしたためと思われる。図5はHDDとSDDの㌦/GBの価格推移を、またHDDとSSDの生産容量の推移を図4に示す。出荷台数は圧倒的にSSDが多いが、容量でみると逆にHDDの方が大幅に増加している。

図4 HDDとSSDの生産実績と今後の予想*4)

図5 HDDとSSDの年度別の価格推移(㌦/GB)*4)

図6 HDDとSSDの出荷容量推移*4)

5 今後の期待される分野
前述のごとく、数量の多いパソコンはSSDへ変わっていったが、大容量はサーバーを含めてHDDであり、今後は、まだパソコンが行き届いていない国の開拓や、製品では前から述べているホームサーバー(10TB)が普及してもいいのではないかと思われる。世界には約10億世帯があるので、1%でも1億台の大容量の市場が開拓できる。また年々増える情報量には、データセンターの増設は必須で、遅延を含めるとできるだけ使用近辺にデータセンターがあるのが望ましく、日本でも東京、大阪の集中から地方へのデータセンターの分散が始まっている。資料は古いがデータセンターレポート(株)日本政策の2021年11月レポートでは、世界には8,153棟のデータセンターがあると報告されている。いずれにしろ、無限に生じる大容量の情報保存にはHDDが必須と思われ、特に世界各地にデータセンターの建設が必須となるので、そのためのHDDの大容量は重要な技術開発のポイントになる。

6 まとめと今後の展開
世界は、とにかく大きく3つの点、すなわち「ウクライナへのロシア侵攻の終結」「イスラエルとハマスの戦争の終結」、そして「気候変動に関する世界共通の地球温暖化の原因のCO2の削減」を、世界の国々が、足並みを同じ方向へ揃える必要がある。そして自由主義や権威主義にとらわれず、お互いが徹底した話し合いで、解決し、国連が機能する世界に持っていく必要がある。また今年は、多くの重要な選挙があるが、その中でも11月5日の米国の大統領選挙には、世界の方向が逆転する可能性があるので注目に値する。一方、日本は、政治パーティの政治資金の使い道と報告に不透明感があり、連日、国会で追及されているが、ピリッとしない。日本には多くの問題を抱えているおり、特に「経済政策」「少子高齢化による人口減少問題」「女性の地位向上」、もっとも大きいのは、「日本の将来ビジョン」が示されていないところにある。中国の全人代の5ヵ年計画の様に、日本も少なくとも20、30年後の日本が、技術面、人材面、人口面、産業面、各都市の姿や産業などの方向性を示すべきである。その為には、カリスマ的に人材の育成が重要と思われる。
一方、ストレージの面では、AI(人工知能)ブームで、半導体を中心とした世界の動きの中で、日本も遅まきながら政府が台湾のTSMCの日本工場建設に伴い大幅な補助金をだして、日本の半導体の強みを発揮できる環境を整えている。ただ、HDDに関しては、数量の出るパソコンがSSDに置き代わったが、大容量のアーカイブのためにはデータセンターを中心にした大容量のHDDが必要であり、今後は面記録密度の向上とディスク1枚当たりの容量を2.5TBから、3TB、4TB、5TBと上げて行き、ディスク10枚で30TB、40TB、50TBの容量が実現できるような技術開発が早急に望まれる。HDDの台数は、昨年(2023年)は1億2,230万台(前年比29%減)と大幅に減少したが、2024年度は1億2,150万台(同0.6%減)の微減にとどまると予想されている*)。この年を底に、さらに2025年には1億2900万台(同6.2%増)と増加が見込んでいる。今後の情報量の増大に対しては大容量のHDDは必須と思われる。HDDなくしては、世界の情報は蓄えられないと思われるので、もうひと頑張り技術開発者に技術力を示して欲しいと期待する次第だ(作成2024年3月11日)。

参考資料
*1)「2022年のコロナ感染と共存した世界経済とストレージ・HDD業界展望」(2022年2月8日 堀内義章)
*2)「新春・2023年の世界経済とストレージ・HDDの業界展望」(2023年3月16日 堀内義章)
*3)2023年のSRCの面記録密度のトレンド
*4) 2024年3月 テクノ・システム・リサーチ資料
*5)2024年2月25日 EE Times

堀内義章
1941年8月25日生まれ、東京生まれの九州育ち(福岡・飯塚)。1965年大阪工業大学卒、日本大学大学院国際情報研究科修士修了(2004年)。三洋電機(株)中央研究所入社。主に、フェライトの多結晶・単結晶の開発導入、VTR用磁気ヘッドの開発・生産導入、HDD用MIIGヘッド、ベータ・VHS用ヘッド、8ミリ用磁気ヘッド、ベータ・VKS・8ミリ用磁気ドラム開発生産導入、以降営業部にてマーケティング、2001年定年退職後、個人事務所「HORI Technology Office」設立。マーケティングを中心に各種レポート発表中。専門は磁気記録(VTRヘッド、ドラム、HDDヘッドマーケティング)。(一社)南太平洋協会・副代表理事長、日本旅のペンクラブ会員(元理事)、IDEMA JAPAN・会員(元理事)、(一社)災害復旧支援ダッシュ隊・会員、民博パートナーズ(MMP)会員、楽酒の会世話人