H29年 (2017年)卒のOB短信

電気電子工学専攻を2019年に卒業後、ローム(株)に入社した池 広大と申します。2023年から電子クラブ幹事に任命いただきましたので、今後とも何卒よろしくお願いいたします。この度、OB短信を執筆する機会をいただいたので、自己紹介も兼ねて私の在学時代を振り返りたいと思います。

私は学部4年生までは平凡な学生生活を送っていましたが、当時の小池 一歩先生(現学科長)、矢野 満明先生(現名誉教授)の研究内容に大変興味を持ったことをきっかけに大学院進学を志していました。ところが、そのとき交際していた現妻と突然にも子供を授かることとなり、学生結婚を果たしてあっという間に1児の父親となってしまいました。当然、家族を養うために進学は諦めることになると思われましたが、私はどうしても進学を諦めきれませんでした。そこで、子を持ちながら学生でいさせて欲しいという我がままを妻と義両親に聞き入れてもらうため、出来るかもわからない誓いを立ててしまいました。その誓いとは、大学院で成果を挙げ奨学金の返還免除を受けることと、大企業に就職することです。これで、なんとか進学を許してもらえたのですが、今度は妻子ができたことを研究室の矢野先生、小池先生にお伝えする必要がありました。しかし、私はまだ学生で考えが浅かったので、先生方に怒られて進学を取り消されるのではないかという思い込みをしてしまい、大学院入学までの1年間は内緒にしてしまおうと心に決めました。隠し通すのはかなり難しく、特に実家から妻が産気づいたと連絡が来たときには、先生方にバレてしまうのでゼミを抜け出せず、危うく出産に立ち会えないところでした。結局、入学の直前に先生方に打ち明けた際には怒られるどころか大変ご祝福いただいたので、子供ができたくらいで進学を取り消すような鬼のような先生方だと思い込んでいたことを深く反省することとなりました。

進学後はD科の他の先生方にも私が妻子持ちの大学院生であることが広まっていきました。当時、副学長(現名誉教授)の小寺 正敏先生の大学院の授業で超音波エコーに関する調査報告をしたときには、妻のお腹にいる長女のエコー映像をプレゼンで使用し、小寺先生が目を丸くされていたことをよく覚えています。そこから色々な先生方に伝わって、他の先生方からも励ましのお言葉をかけていただくようになりました。今になって思い返せば、お子様がおられる先生方が多いので子育ての大変さや楽しみを理解いただきながら接してくださっていたということを痛感しています。また、私が先生方に相談事があると言うと「まさか2人目が産まれるのか!?」とイジられることも定番のネタになっていましたが、大学院2年の後半には本当に長男を授かり、2児の父親となりました。

このような大学生活でしたが、特に研究室の小池先生方と矢野先生には非常にお世話になり、私もなるべく妻子がいることを言い訳にせず研究に励むことができました。また、妻が社会人として自立していたので私は朝から夜遅くまで研究に没頭できました。そのお陰で、応用物理学会や日本材料学会といった著名な学会で賞を与る成果をあげることができ、奨学金の返還免除も受けることができました。このバックグラウンドが就活にも生かされ、第1志望のローム(株)にもすんなり入社できました。奇跡的に当初立てた2つの誓いは果たされたわけですが、家族や先生方の支えがなければ到底達成できなかったと思います。

さて、月日は早いもので、だらしなかった学生の私をここまで成長させてくれたきっかけとなった長女はもう小学1年生、長男は4歳になりました。私は入社5年目となり、かなり責任のある仕事も任せてもらえるようになりました。当然、成果を上げなければならないプレッシャーや上手くいかないストレスにも直面しますが、進学前に子供ができたあのどうしようもない局面に比べれば幾分かマシに思えてきます。昨今は晩婚化し、20歳近く年上の先輩社員のお子さんが私の子どもよりも年下ということも珍しくありません。それに比べれば、まだまだ手がかかるとはいえ、私が働き盛りの時期に子供がある程度成長していることは大きなメリットになっています。

この度、学生時代を振り返って思ったことは、何かの出来事をきっかけに人生計画が破綻したように見えても、実は人生は不思議なバランスを保っていて、耐え忍べば案外うまくいくこともあるということです。それを教訓にして、私は困難に直面したとしても、それは成長や新しい出会いに繋がるではないかとポジティブに捉えて立ち向かうことができています。このような経験をさせてくださった先生方と家族に改めて感謝したいと思います。